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旭川家庭裁判所 昭和39年(少イ)15号 判決

被告人 矢作清一郎

昭四・一二・一生 旅館業

内山ミヨ

明四三・二・二生 飲食業

主文

被告人両名をそれぞれ罰金三千円に処する。

右罰金を完納することができないときは金五百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

訴訟費用(国選弁護人に支給した分)は全部被告人内山の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人矢作は、肩書住居所在時矢旅館の帳場として女中の雇入及び作業割当等をなしている者であるが、

一、昭和三九年八月四日から同年同月一二日までの間毎日前記時矢旅館において満一八才に満たない一戸秀子(昭和二四年三月一七日生)を午前五時前である午前四時三〇分頃から女中として使用した、

二、同期間同所において満一八才に満たない右一戸秀子を女中として使用しながらその年令を証明する戸籍証明書を同事業場に備え付けなかつた。

第二、被告人内山は、肩書住居所在の食堂特一番一四丁目支店を経営している者であるが、

一、同年同月一六日から同年同月二五日までの間毎日前記特一番一四丁目支店において満一八才に満たない前記一戸秀子を午後一〇時を過ぎる午後一一時三〇分頃まで店員として使用した、

二、同期間同所において満一八才に満たない右一戸秀子を店員として使用しながらその年令を証明する戸籍証明書を同事業場に備え付けなかつた。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人矢作について、

判示第一の一の各事実 労働基準法第六二条第一項第一一九条第一号(罰金刑選択)

同二の事実      同法第五七条第一項第一二〇条第一号

併合罪加重      刑法第四五条前段第四八条第二項

労役場留置      同法第一八条

被告人内山について、

判示第二の一の各事実 労働基準法第六二条第一項、第一一九条第一号(罰金刑選択)

同二の事実      同法第五七条第一項第一二〇条第一号

併合罪加重      刑法第四五条前段第四八条第二項

労役場留置      同法第一八条

訴訟費用の負担    刑事訴訟法第一八一条第一項本文

(科刑上一罪の一部無罪の説明)

本件訴因第二の(3)は、「被告人内山は昭和三九年八月一八日から同年同月二五日までの間満一八才に満たない前記一戸秀子をして午後一〇時を過ぎる午後一一時三〇分まで前記特一番一四丁目支店から旭川市四条通一六丁目中島病院外三ヶ所にラーメンの出前持ち等をさせ、もつて児童に午後一〇時以後戸戸について物品の配布を業務としてさせたというのであり(検察官の釈明によれば、右にラーメンの出前持ち等とあるのはラーメンの出前持ちのみをいう趣旨であるとのことである)、前記罪となるべき事実第二の一の各事実認定の資料とした証拠によれば、被告人内山が満一八才に満たない前記一戸秀子に右期間毎夜午後一〇時から午後一一時三〇分頃までの間に注文がある都度各別に右中島病院外三ヶ所(互いに離れて所在する)へラーメンの出前持ちをさせておつた事実を認めることができるが、児童福祉法第三四条第一項第四号の二にいう「戸戸について」とは、言葉の通常の意義として一軒一軒まわり歩いての意味に解されるのみならず、同規定の立法趣旨が児童にいわゆる深夜街頭労働を業務としてさせることを児童の福祉を著るしく阻害する行為の一つとして禁止するにあることに徴しても又同法第三四条第一項第四号、第四号の三と対比して考えてみてもそのように解するのが正当であつて右認定のラーメンの出前持ちのように注文があればその都度注文があつた家にだけ物品の配達をする行為は戸戸について物品の配布をする行為にはあたらないものと解するのが相当であるから、本件訴因第二の(3)は児童福祉法第三四条第一項第四号の二第六〇条第二項には該当せず罪とならないものといわなければならない。しかしながら本件訴因第二の(3)の各事実は前記罪となるべき事実第二の一の各事実と観念的競合の関係にあるものとして起訴されたものと考えられるから、特に主文において無罪の言渡はしない。

(裁判官 露木靖郎)

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